「わたし、恥ずかしいけど、農業しかしたことないがよ。
けんど、ほんやきわかるがよ。」
日曜日の早朝。
露天市で親しくなったおばあちゃんが
店先に活けた商品の花を見せながら言いました。
「この花も見て。白い模様がはいっちゅうろう。
今までこんな色になったことなかった。年々、野菜もきれいに育たんなった。
地球が、土が変わってきたことがわかる。」
土が変わる
そんな大事な話が、
些細な会話の中で出て来たことに驚きました。
環境問題を口にするのは、テレビや人前に立って大きな声をあげられる人や、
研究者や有識者や本を書くような人だと思い込んでいたのかもしれません。
日曜市のおばあちゃんの口から出た「土が変わった」には、生々しい響きがありました。
テレビやラジオやインターネットや本の向こう側ではない、すぐそこの郷の話。
土ははじめから土ではないそうです。
岩が風化し、動植物の遺骸やフンなどが微生物の技により分解され腐葉土へ。
さらに腐植となり土壌へと姿を変える。
厚さ1センチの土が出来るのに、100年かかるとも言います。
1メートルでは1万年。
現在の科学技術でも化学構造の一部しか解明できていない
微生物だけが知っている複雑な土を生成するレシピ。
土は見えているのに、全てを可視化できておらず、
でも確かにそこに見えている以上のモノが“在る”。(*1)
そして重層的な影響により、今後失われる恐れもはらんでいる。
そんな複雑であやふやな土の存在を 町や地域、文化、伝統に技術、
そして継いできた精神に重ねて想像します。
長い年月、発酵あるいは熟成など、変容しつつ成る堆積物、
それを土壌に、種々雑多な活動と反応が起こり、
エネルギーが生まれ、豊かな実りへとつながります。
しかし過度な省労力、利便性、効率を追い求め、
工業製品の検品宜しくあやふやさを取り除いた時に、
重ねた時間よりはるかに速いスピードで失われます。
身の周りのもモノはぐんぐんと速度をあげて便利になり、
私たちはどんどん刹那的、衝動的になっていきます。
それでも新たな命が生まれている。未来は続いていきます。
取りこぼしてもおかしくなかった本企画のテーマを作った小さな声。
「土が変わってきたことがわかる。」
郷と土のはなしを手掛かりに、
足元や周囲を観察して、
わたしたちの物質的な精神的な現在地を知り、
そしてそれをゆらしてみたり、
ずらしてみる試みになればと思い、
本企画は始まりました。
*1 2018年 藤井一至「土 地球最後のナゾ100億人を養う土壌を求めて」
テーマ | 現代地方譚11 郷と土のはなし(さととつちのはなし) |
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展覧会期 | 2024年1月20日(土)~2月18日(日) |
会場 | すさきまちかどギャラリー/旧三浦邸、ほか |
時間 | 10:00~17:00 月曜日休館 |
主催 | すさき芸術のまちづくり実行委員会 |
共催 | すさきまちかどギャラリー/旧三浦邸、須崎市 |
お問い合わせ先 | すさきまちかどギャラリー/旧三浦邸(TEL.050-8803-8668・E-mail machikado.gallery@gmail.com) |