小さきに宿る

                 
Y.N.のモノローグ

駐車場にしゃがみ込み、敷き詰められた石灰石を手で少し掘り返した。

その動作を何度か繰り返しながらよく目を凝らすと乳白色の石群の中で控えめに光るかけらを見つけた。

黄褐色で半透明のその石を、少年のわたしはポケットに入れ、家へと持ち帰った。

家族に見せるでもなく、箱にしまい込んだそのかけらを、しばしば取り出し光に透かし喜びに浸る。内部がひび割れた、小さな石片がわたしに一時の幸せをもたらしてくれた。

「小さきもの」に惹かれることがある。

––文旦の果肉の粒状の瑞々しい輝き。水泡に映る雲と空の蒼さ。群れ泳ぐメダカの流動。––

いつも何かに追われている日常で、ふとそんな小さきものたちの美しさを愛おしく感じるのは、きっと幼い頃の体験が根底にあるからだろう。

S.S.のモノローグ

子供のころ、神社で遊んでいた時の事、小石ひとつにも神様が宿っているから、持ち帰ってはいけないと大人から教えられた。

海と山とに囲まれたこのまちには神社も多い。それだけ神様も大勢暮らしているのだと聞いて、何だか神様が身近な存在になったような気がした。ひとり小石遊びをしていた私だけど、本当は神様たちと一緒に遊んでいたのかもしれない。

西町の夏祭りでは長年に渡り、竹や布で手作りした竜の演舞「竜踊り」が執り行われてきた。

大人たちは親竜を、子ども会の小学生は子竜を、それぞれ10人程で担いで踊るのだが、地域の子どもが年々少なくなったせいで、昨年から親竜のみとなったそうだ。

夜店と見物客でにわかに賑わう商店街を、ただ一頭で駆け抜ける竜の姿に地域の風習、伝統や文化の未来を案じている。

––1988年に4,014人だった須崎市内の生徒児童数は今年1014人。36年間で3,000人の減少となりました。

子どもたちは身の回りのそこかしこから楽しみを生み出す天才です。

気づきを創造に変換し、独自に考える遊び方やルールから自然と喜びを見出します。

他者からの評価が介在する前の、その純粋な喜びは世界を窺い知ろうとする原動力となり、溢れ出る興味は自らを支える根っことなるでしょう。

小さきに宿るもの。

今回の現代地方譚ではこの創造の原初にある喜びをもう一度見つめ直してみようと思います。

世界が効率化すると共に平らに均され、圧縮される前の記憶に立ち返ったところを起点にして、このまちの将来を思い描きます。

アーティスト・イン・レジデンス(AIR)

アーティスト・イン・レジデンス(AIR)とは、芸術家が須崎市に一定期間滞在し、住民との交流、地域資源の活用に取り組みながら作品制作を行い、その成果を展示・発表するアートプロジェクトです。今日的な芸術表現を、作品の生まれる現場に立ち会い、作家との交流を通じて理解し、楽しみながら地域課題の解決の糸口を探ります。ユニークな視点を持つアーティストが須崎での滞在経験を元に制作したアートワークを発表します。

これまでに100組以上のアーティストがこの地域に滞在し、地域住民との交流を深めてきました。アーティストの滞在拠点や展示会場として、街に点在する空建物を活用することで、展示を観るために街を回遊する人の流れも生まれました。活用した物件に入居が決まる事例も出ています。アーティストのユニークな活動を目の当たりにすることで街に活気が生まれ始めています。

テーマ現代地方譚12 小さきに宿る
展覧会期2025年1月18日(土)~2月16日(日)
会場すさきまちかどギャラリー/旧三浦邸、ほか
時間10:00~17:00 月曜日休館
主催すさき芸術のまちづくり実行委員会
共催すさきまちかどギャラリー/旧三浦邸
協力高知県立美術館
お問い合わせ先すさきまちかどギャラリー/旧三浦邸(TEL.050-8803-8668・E-mail machikado.gallery@gmail.com)